マッシュマン(糖化職人)
基礎造り
グレンフィディックの基礎造りは創業当時から変わっていません。糖化と発酵のプロであるマッシュマンたちは鋭い眼光を光らせながらマッシュタン(糖化槽)を使い、原酒を仕込んでいきます。選りすぐりの大麦を調合し、粉砕したのち、それをロビーデューの湧き水に加え、64度に加熱します。粥状になった「マッシュ」は糖に変わり、さらに分解されて上質な甘みとピリッとした辛みを兼ね備えた液体、すなわち麦汁に変わります。麦汁を濾過して冷ましたのち、「ウォッシュバック」と呼ばれる発酵槽に移し、そこで酵母を加えることにより、発酵が始まります。先達たちがそうしてきたように、マッシュマンはすべての発酵槽の温度と量、そして砂糖の重量を黒板に書き出して記録します。
糖化(マッシング)と発酵(ファーメンテーション)
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1当社専門の麦芽業者から購入した大麦を荒い粉末状に粉砕し、加熱したロビーデューの湧き水と混ぜ合わせます。
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2「マッシュ」と呼ばれるこの濃い茶色の粥状の混合物を、巨大な発酵槽(マッシュタン)に注ぎ込みます。
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3マッシュナイフを回転させてマッシュを撹拌し、大麦のデンプンを発酵可能な糖分に変化させます(糖化)。
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4ロビーデューの湧き水が糖分を吸収し、6時間後、「麦汁」と呼ばれる濃いシロップ状の液体に変わります。
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5麦汁を濾過し、17度まで冷まします。
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6冷めた麦汁を、ダグラスファーの木材を使った巨大な手造りの発酵槽に注ぎます。
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7酵母を加えます。発酵が進むにつれ温度が上がり、糖分がアルコールに変化します。ここで初めて、私たちのウイスキーの特徴である洋梨の風味が生まれます。
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82日から3日で温度が下がり、アルコール度数最大9%の濃い茶色の「ウォッシュ(もろみ)」が残ります。こうして蒸溜の準備が整います。
スチルマン(蒸溜職人)
ジョージ・ガリック
蒸溜の本溜分(ハーツ)
グレンフィディックのウォッシュ(もろみ)は最初に銅製の初溜釜(ウォッシュスチル)で過熱・凝縮され、次いで再溜釜(スピリットスチル)で蒸溜されます。液体比重計を用いた正確な判断に基づき、スチルマン(蒸溜職人)が「ハイカットポイント」を定めます。検度器のコックを、先達が100年前に定めたいつものポイントに正確に合わせるのです。すると蒸溜したての液体が流れ出します。それこそが蒸溜液の最も重要な部分です。純度が高く、香り豊かで甘くフルーティーな味わいがその特徴です。その時点でアルコール度数は約70%となり、熟成の準備が整います。
銅器職人
銅の彫刻家
私たちは今もなお蒸溜所創業当時とまったく同じ形のポットスチルを使い続けています。銅は柔らかく変形しやすい金属なので、手間暇を惜しまずに手入れを行い、また、何代にも渡って知識を集積することが重要です。当社は1957年以来、蒸溜所に専門の職人を常駐させ、独自の形と大きさを持つ28基のポットスチルすべての手入れに当たらせています。この伝統は私たちにとって重要なものであり、優れた味わいを持つウイスキーを作るための鍵とも言えます。そしてまたこの伝統があるからこそ、私たちは今なお操業を続けられる数少ない蒸溜所の一つでいられるのです。
蒸溜(ディスティレーション)
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1発酵過程を終えた濃い茶色のウォッシュ(もろみ)が初溜釜に注ぎ込まれます。
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2ウォッシュを沸点近くまでゆっくり加熱します。すると、アルコールが蒸発し、ポットスチルの細い煙突に流れ込みます。
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3蒸発したガスは水冷の凝縮器に導かれます。この液体がアルコール度数約12%のローワイン(初溜液)と呼ばれるものです。
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4ローワインは加熱されたのち、再溜釜で再び凝縮されます。ウイスキーの性質を守るため、通常、2種類の異なる再溜釜が使用されます。そして、その2つの再溜釜の蒸溜液を均等に混ぜ合わせます。
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5蒸溜過程のある段階でハイカットポイントが決められます。それにより、透明で軽く、フルーティーな蒸溜液の本溜分(ハーツ)が得られます。蒸溜を終えた「ニューメイク」が検度器に滴り落ち、熟成の準備が整います。
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6蒸溜後、純度が低いと判断された部分は「フェインツ」と呼ばれ、再度蒸溜に供されます。
樽職人
イアン・マクドナルド
木の匠
当社の古老とも言える樽製造責任者イアン・マクドナルドは、100年という歳月をくぐり抜けてきた知識と道具を駆使して樽の製造、修理、そして熱処理(チャー)を行っています。今では珍しくなった蒸溜所内のクーパレッジで、彼は経験豊富な仲間たちと共におよそ毎日126個の樽の手入れに当たっています。熟成に際してウイスキーの味わいの65%を左右するオークを扱う彼の仕事には、大きな責任が伴います。
熟成庫職人
マイク・ドーソン
熟成庫の番人
熟成庫に積み上げられた樽の中でシングルモルトスコッチウイスキーが静かに熟成するのを見守るのが、当社の経験豊富な熟成庫職人の仕事です。熟成庫職人は樽に液漏れがないかのチェックや、モルトマスターのためのサンプル抽出などを行いながら、後熟過程を管理し続けています。万一、樽に問題が見つかった場合にはすぐさま樽職人に連絡します。また、彼らは熟成モルトを絶えず監視し、その最新の状態についてモルトマスターに報告します。
熟成(マチュレーション)
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1最高級のアメリカンオークとスパニッシュオロロソを使った樽を、樽製造責任者が自らの手で選別します。
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2何年もの間、実際に使用され、熟成された樽だけが選ばれます。かつて、アメリカンオーク樽はバーボンの保存に、また、ヨーロピアンオーク樽は上質なシェリーの保存に、それぞれ使われていたものです。
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3オーク材は、赤外線処理(トースト)あるいは熱処理(チャー)によって樹液がカラメルに変化し、オークのフレーバーが広がります。
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4蒸溜したての「ニューメイク」(蒸溜液)に、アルコール度数が63.5%になるようロビーデューの湧き水を加え、樽を一杯にします。
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5暗く湿った熟成庫で何年ものあいだ樽を寝かせてハイランド地方の空気で呼吸させ、シングルモルトを熟成させるとともに、「鹿の谷」の精気を染み込ませます。
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6こうして熟成庫職人による管理の下、樽の中のウイスキーは根気よくボトルに詰められる日を待つのです。
モルトマスター
ブライアン・キンズマン
研ぎ澄まされた感覚
生まれ持った技、そして、仕事に対する意欲と真摯な姿勢。これらの要素が土台となってモルトマスターの優れた嗅覚と味覚を支え、特別なウイスキーを創り出す原動力となるのです。数世代前、熟成期間中にどうしても生じてしまう味のばらつきを抑えるため、当社のモルトマスターは後熟(マリッジ)という手法を導入しました。後熟とは、熟成したウイスキーを、ほかの樽のウイスキーと共にオーク材でできた後熟樽に注ぐというものです。そこでほかの樽のスピリッツと一緒に熟成させることにより、ウイスキーには程よい均一性とハーモニーが与えられます。その後、モルトマスターが適切と判断した段階で、ウイスキーをボトル詰めします。この手法はモルトマスターの間で代々受け継がれてきました。したがって、今もなお、一杯のウイスキーには125年以上にわたって彼らが積み重ねてきた知恵が凝縮されているのです。
後熟(マリッジ)と瓶詰め(ボトリング)
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1好ましい熟成度に達したと判断された樽から、ポルトガル産のオーク材でできた巨大な後熟樽へとウイスキーが移されます。
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2そこで同年代またはより古い年代のウイスキーと一緒に最長9ヶ月間寝かせることにより、なめらかで調和のとれた均一なウイスキーへと変化させます。
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3ウイスキーの性質により、後熟に先立って数か月間、新しいオーク樽または他の酒を保存していた樽で寝かせる場合があります。密度の高いアロマやフレーバーを吸収させることにより、ウイスキーに特徴的な後味が付け加わるためです。
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4それぞれのウイスキーの性質に応じて、適切なアルコール度数が得られるようロビーデューの湧き水を加えます。このようにして完成したシングルモルトがボトルに詰められます。